式典と貴賓の接待のため、レオナールの従者から発情の抑制剤を少しだけ渡してもらえたが、エマの体調は優れなかった。
発情期はまだ先の予定なのに、軽い微熱が続いている。 (ルシアン様のフェロモンに、あてられたのかも……) エマは密かにそう思ったが、ナタリナにさえそのことは話さなかった。 式典を明日に控え、夜中まで書き物机で書類の暗記に励んでいたが、それをナタリナが止めた。 「エマ様。薬を用意しましたのでこちらへ」 「薬?」 ナタリナに促されるまま、エマはベッドに腰掛ける。 「抑制剤には及びませんが、熱を下げる効果があるので、少しは楽になるはずです」 ナタリナに渡された小さな器には、緑色の液体が揺れていた。 「私が煎じたものです。鎮静効果のある薬草をすりつぶして、蜂蜜を加えました」 「う……」 見た目も匂いも不味そうだが、ナタリナの善意を無駄にするわけにはいかない。 意を決して、一気に飲み干す。 「んっ……ッ!」 口の中に苦味が広がり、顔をしかめる。 一滴も残さず胃に収めると、ナタリナが優しく微笑み、今度は器に水を足してくれる。 それも飲み干すと、口の中がスッキリした。 「さあ、横になってお休み下さい」 「でも、準備が……」 「先ほど、王太子殿下の使いが参りました。エマ様の容態を心配して下さり、今宵は休むようにとの言づてです」 「ぁ……ダリウ殿下は、お気づきになられてたんだ……」 王太子の指示に従い、貴賓を迎える準備をしていたが、この数日で何度も顔を合わせたので、エマの不調を見抜いたのだろう。 逆に、レオナールはこの一週間ほどろくに顔も見ていない。カミラ嬢と王宮庭園を散策する姿が、たびたび目撃されているそうだ。 ナタリナはエマの肩まで毛布を掛け、優しく告げる。 「朝になったら、起こしに参ります。それまではお休み下さい」 「うん」 横になると、体が急に重くなった。 思った以上に体が